001
最初に聞き取れたのは、耳障りな電子音。それが机の上からのものだとわかるまでに、四肢に血が通う疼きと、まばゆく暖かい光が、ゆっくりと意識をこじ開けていく。払暁とも薄暮ともつかぬ空模様が瞼の裏をちらつき、レールの継ぎ目を叩く電車の音が胸を締め付けたのは、1秒にも満たない間だけだっ …
002
書類の量がおかしい。
シャーレに流れ込む機材や物資はひと段落したから、仕事を選ぶための時間を取れるはずなのに、一向に暇にならない。かろうじて寝る時間が取れるくらいだ。
一枚一枚ちんたら時間をかけて読んでいるのかって? うーん、そうかもしれない。数をこなしてナンボの仕事ではあって …
003
耳朶を打つ電子音に、泥とも夢ともつかぬ微睡みから引き上げられていくのがわかった。布団に埋もれた手が、音だけを頼りにスマートフォンを探り当てる。つけっぱなしの空調で冷えたものか、寝起きの指先は冷たい。うつ伏せに寝ていたらしい──そう気づくより早く、乾ききった喉は「GSA桜井」とい …
004
連邦生徒会長失踪後、もぬけの殻になっていたサンクトゥムタワーにも、ようやく人の気配が戻ってきつつあった。
各自治区の大使館に応援要員を送り出し、学園都市の四方を走り回らせてなお、統括室と行政委員会を擁する連邦生徒会の人員規模はキヴォトス随一を誇る。連邦生徒会長の失踪は、巨体であ …
005
思ったより栄えている。駅のホームに降り立った私によぎったのは、そんな月並みな感想だった。
D.U.に用意された自宅から電車を乗り継ぐこと、半日と少し。砂漠を目指した旅の終点は、拍子抜けするほどには整った街並みだった。砂に埋もれた廃墟さながらの光景を想像していた目には、改札越しに …